フユの備忘録

読んだ本の感想などを書いています

備忘録

一昨年12月から数か月の間、「不幸中の幸い」としか言いようのない出来事が立て続けに起きた。それぞれの出来事の最中にはもちろん、それが不幸なのか幸いなのかを考える余裕などなく、とにもかくにも刻々と変化する状況に対応していくだけで精一杯なわけだ…

グレン・グールド ブラームス 間奏曲集

Glenn Gould, Brahms: 10 Intermezzi for piano グールドのアルバムの中で特に好きなもののひとつに、ブラームスの『間奏曲集』がある。今でこそ、幾人ものピアニストがブラームスのピアノ小品を集めたアルバムを出しているけれど、自分がこれを買ったころ…

グレン・グールド ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番

閉所恐怖がある身にとっては、コンサートのたぐいはどうにも敷居がたかく、音楽を楽しもうとすればもっぱら、ラジオかCD、DVD(またはTV)を聴く/見るということになる。好きな演奏家が現役で活躍していて、その音色をじかに聴けるチャンスが訪れたとして…

マリリン・ロビンソン 『ハウスキーピング』2

語り手をつとめるのは主人公のルースで、物語は全編、彼女の視点から語り進められていくのだが、はじめのうち、本当にルースが語っているのだろうかと疑問に思ってしまうような瞬間が何度か訪れる。たとえば、ルースの祖父は彼女が生まれるずっと以前に鉄道…

ジュンパ・ラヒリ 『わたしのいるところ』

ジュンパ・ラヒリ 『わたしのいるところ』 Jhumpa Lahiri, Dove me trovo 中嶋浩郎訳 新潮社 クレスト・ブックス 2019年刊 『べつの言葉で』に続き、ラヒリがイタリア語で書いた作品第二弾。長編小説とうたわれているけれど、こまかく46に分けられた章がそ…

エリザベス・ストラウト 「私の名前はルーシー・バートン」

エリザベス・ストラウト 「私の名前はルーシー・バートン」 Elizabeth Strout, My name is Lucy Barton 小川高義訳 早川書房, 2017年刊 どんな語学の初級教科書にも載っていそうだけれど、実際口にするには少しばかり不自然な例文がある。そんな例文を思わせ…

堀江敏幸 「曇天記」

堀江敏幸 『曇天記』 都市出版、2018年刊 昨年の半ばからもう身体のあちらこちらに、これまでなかったような違和感をおぼえていた。年に一度、診療所から送られてくる健康診断の結果にも、数値で判断できるかぎりの警告がいくつか読み取れはしたが、これと…

マリリン・ロビンソン 「ハウスキーピング」1

マリリン・ロビンソン 「ハウスキーピング」 Marilynne Robinson, Housekeeping (篠森ゆりこ訳 河出書房新社、 2018年刊) 本屋の書棚に立てかけられた本のジャケットがこちらを見つめていた。ジャケットいっぱいに描かれた、一本の大きな木と水面と、水面…

「バッハ・古楽・チェロ アンナー・ビルスマは語る」

アンナー・ビルスマ+渡邉順生 著、加藤拓未 編・訳 「バッハ・古楽・チェロ アンナー・ビルスマは語る」 Bach, early music and violoncello : a conversation with Anner Bylsma アルテスパブリッシング、2016年刊 なにかあった時にいつでも起きられるよう…

堀江敏幸「音の糸」

堀江敏幸「音の糸」 小学館、2017年刊 買い物の途中に寄った近くの本屋で、まだ買っていなかった「音の糸」を手にとった。冒頭の一編「青少年のいる風景」は、著者が大学生のころに行ったあるコンサートについてのエピソードにはじまり、「十代の頃からFM放…

ジュンパ・ラヒリ 「べつの言葉で」 (中)

ジュンパ・ラヒリ 「べつの言葉で」 Jhumpa Lahiri, In altre parole 言葉にされず、形を変えず、ある意味では、書くというるつぼで浄化されることなく通り過ぎるものごとは、わたしにとって何の意味も持たない。長続きする言葉だけがわたしには現実のものの…

ジュンパ・ラヒリ 「べつの言葉で」 (前)

ジュンパ・ラヒリ 「べつの言葉で」 Jhumpa Lahiri, In altre parole 新潮社、クレストブックス、2015年刊。中嶋浩郎訳。 2014年の中ごろから今年のはじめまで、身辺で実にさまざまなことが起き、本を開くことができなかった。なかなか診断のつかない病に消…

オリヴィエ・アサイヤス 「アクトレス」

オリヴィエ・アサイヤス 「アクトレス」 Olivier Assayas, Sils Maria, 2014 アサイヤスの映画を地元のシネコンで見られる日がくるとは思ってもいなかった。こんな機会はもうないかもしれないので、時間をやりくりして駆けつけた。(のは、もう去年の話にな…

アリス・マンロー 「ディア・ライフ」 (後)

アリス・マンロー、「ディア・ライフ」 Alice Munro, Dear Life 「フィナーレ」4篇で描かれるのは、数十年の時を経てもなお、消化されぬまま心に残るいくつもの出来事、またそれらの出来事にまつわる当時の感情で、その感情の多くは怖れ/畏れ、憤りなど、…

アリス・マンロー 「ディア・ライフ」(前)

アリス・マンロー、「ディア・ライフ」 Alice Munro, Dear Life 新潮社、クレストブックス、2013年刊。 小竹由美子訳 前回の更新から3か月あいてしまった。 マンロー最後の短篇集として出版された「ディア・ライフ」。そのタイトル、 Dear life という響き…

モーリス・ピアラ 「ヴァン・ゴッホ」

ピアラ 「ヴァン・ゴッホ」 Maurice Pialat, Van Gogh 1991年/ 160分 シアター・イメージフォーラムで開催されていた没後10年特集上映の中の一本。 ゴッホがオーヴェルの駅に降り立つシーンで始まるこの作品は、37年で終わる彼の人生の最後の2ヶ月間、オー…

「フランク・オコナー短篇集」

「フランク・オコナー短編集」 Frank O'Connor 岩波文庫 阿部公彦訳 名前が似ているので、どうもフラナリー・オコナーと混同してしまうことの多かったアイルランドの作家、フランク・オコナーの短篇集。カタカナで書くと「オコナー」はもちろんのこと、「フ…

アリス・マンロー 「小説のように」

アリス・マンロー、「小説のように」 Alice Munro, Too Much Happiness. 新潮社、クレストブックス、2010年刊。小竹由美子訳。 マンローの短編集「小説のように」を、ここ何週間かをかけて読んでいて、何を書こうかとあれこれ考えていたところにノーベル文学…

マルグリット・ユルスナール 「追悼のしおり」 (1)

ユルスナール、「追悼のしおり」。 2011年、白水社「世界の迷路」シリーズの第1巻として刊行。 Marguerite Yourcenar, Souvenirs pieux. <母・父・私をめぐる自伝的三部作、第一巻>(帯より) 「とどめの一撃」「ハドリアヌス帝の回想」「黒の過程」の著…

ぺティナ・ガッパ 「イースタリーのエレジー」

読んだ本の感想などを記録する備忘録です。 第1冊目は、ガッパ、「イースタリーのエレジー」(An Elegy for Easterly)。 新潮社のクレストブックス。2013年6月刊。 1971年ザンビア生まれ、ジンバブエ(旧ローデシア)で思春期を過ごしたペティナ・ガッパ P…